1892年創業のオランダのブランドGazelle(ガゼル)。坂がほとんどないお国柄が基本設計にも表れているおもしろいブランドだ。車重がかなりあるため坂が多い日本にはきついかもしれないがそこは慣れもあるだろう。自転車好きにはすでに周知のブランドだが、年季の入った実物にはなかなかお目にかかることができなかった。こちらの自転車は1968年製造の45年物。
所有者は現在在日米陸軍で安全課の上役として日本滞在中のウイリアム・マックスウエル氏。この自転車は1993年にイタリアの米軍空軍基地にて友人を約六ヶ月間説得して譲ってもらったものだそうだ。これまでにドイツ、アメリカ(ニューメキシコとハワイ)、そして日本において日常の足として乗り続けているがごらんの通りのきれいな状態を保てている。想像しているよりも雨ざらしに近い状態で保管されているのだが磨くだけでこのような状態を保てるのは本来のずば抜けた耐久性の証でもあるだろう。特徴は昔日本の自転車でも良く見受けられたタイロッド式のブレーキ(ただしこちらは前後両輪同時にブレーキがかかるコンビブレーキ仕様となっている)、耐久力抜群のドラムブレーキ、そしてスターメーアチャー(Sturmey Archer)社製の3段ギア。タイヤやチューブなどの消耗品以外は全てオリジナルだという。
マックスウエルさんいわく、『ワイヤーではなくタイロッド式のブレーキ、定評あるオランダ式の無骨なスタイル、そしてその耐久性に魅了されて友人に頼み込み何とか譲ってもらった』という。このあたりは数年前まで空軍で“空飛ぶ戦車”とも言われるA-10戦闘機の曹長(First Sergeant)として活躍していた人ならではのテイストだろう。
残念な事に最近の日本では日常の足として使用されている自転車は“乗り捨て”に近い状態で使用されていることが多く見受けられる。また、その半面高級なスポーツ車などはほんの数年でファッションの様な感覚で“着替え”がされていることも多く目に付く。もしくはほとんど乗られずに“お蔵入り”している自転車も多いであろう。自転車やその他の乗り物はそもそも移動するための手段のひとつだ。お蔵入りさせるのでもなく、使い捨てにしてしまうということでもなく、一つの物を大切に長く“使い続ける”という原点に戻ることも必要なのではないだろうか?そもそも日本には大昔から一つの物を大事に、長く使い続けるという文化があった。それこそ炭から着物のはぎれまで、ほとんどの物は再生・再利用されていた。現代においてはそこまで極端にならずとも、少し前に国連で流行った『もったいない』精神をもう一度見直してみるのもよいのではないだろうか。また、今だからこそ高度成長期の最後の頃まで日本でも大活躍していた旧式の“働く自転車”のような無骨な自転車は逆に新鮮に映るかもしれない。
S.Yano